会議やプレゼンテーション、セミナーなどの人前で自分の意思を伝えることを、パブリックスピーキングといいます。
顧客へのプレゼンやイベントでの演説など、ビジネスにおいては人前で話をする機会が多くあります。
このような場面で、聞き手を引きつけて自分の想いを伝えることは、重要なビジネススキルになります。
効果的なパブリックスピーキングの基本的なポイントを解説します。
スピーチにおけるストーリーと全体の流れ

パブリックスピーキングで一番大切なのは、話す内容です。
テーマの選び方と、話の流れをどのようにするかを十分に考えることが必要です。
良いテーマを選び、目的に最も合うストーリー展開を考えましょう。
模範的なストーリーは特にありませんので、伝えたい内容や、話す状況、聞き手などに合わせて考えましょう。
他にも、ストーリー展開を考えるときには、次のようなポイントを考慮しましょう。
メインメッセージを検討するポイント
- 持ち時間はどのくらいか
- 自分の前後に誰が何人話すのか
- 聞き手はどのようなタイプか
伝えたいメッセージは1つだけに絞る
伝えたいメッセージは1つに絞りましょう。
このとき、イメージするだけでなく、文章として書き出してみることです。
簡潔な一文で表現できなかったり、長くなるのであれば、もう一度練り直した方がよいです。
メッセージをいくつも出してしまうと、それぞれの印象が薄くなってしまうので聞き手の記憶にはほとんど残りません。
どうしても絞れない場合は、メインを1つにして、他はサブのメッセージとして位置づけてください。
サブメッセージについても、できるだけ数は絞ることようにしましょう。
割合としては、メインを1つ、サブを2~3つ程度にしましょう。
オープニングで聞き手と良好な関係を築く
スピーチの始めで聴衆を聞く態勢に持ち込むことが必要です。
具体的なやり方としては、何か質問を投げかけたり、共感できるようなエピソードを話すなどです。
オープニングでは、興味を引くこと、良い印象を持ってもらうこと、テーマを伝えることが大切です。
あとは、補足情報として、時間や内容、目次項目などを伝えるようにします。
先が読めないと、聞き手は不安定な状態になり、話を長く感じたり、内容に集中できなくなったりします。
こうして、聞き手との間に良い関係を築くことでスピーチの土台にします。
スピーチ本論の流れ
スピーチの本論に模範的な構成はありません。
状況や内容、聞き手などに合わせて、最適なストーリー展開を考えましょう。
時系列に沿って話すのは、分かりやすいので聞き手を混乱させないですが、強い印象を残すのは難しいところがあり、ビジネスコミュニケーションとしては不向きです。
いくつか事例を挙げます。
ストーリーの流れ
- ビジネス系のストーリー:まず結論を述べてから説明に入る
- 不特定多数の聴衆への訴え:現状から問題提起して提案する
- 環境保護の訴え:聞き手に考えさせて感情移入してもらう
どのような状況でも、ストーリー展開をはっきりさせておくことが大切です。
結論を述べた後で、時系列で延々と話を続けるような流れは、避けるようにしましょう。
話の節目で補足を入れる
スピーチの中にいくつかガイドとなる情報を入れると、聞き手は迷わずにストーリーを聞くことができます。
話の切れ目で次に何を話すのかを伝えたり、後で簡潔にまとめてから次に移るようにして、補足することで整理しながら話を進めます。
「ポイントは○個あります」というような補足は、聞き手に対して聞く準備をさせる効果があります。
続けて具体的な内容を話すときは、「1個目は~」という言い方を心がけると親切です。
聞き手がストーリーの流れを追うのが難しいようだと、ストーリーの内容を意味を深く考えることはできません。
自然な流れで伝わるストーリー展開をするなかで、補足情報をうまく活用しながら、聞きやすいスピーチにしましょう。
時系列では補足しない
時系列で話すような、流れが決まっているようなストーリーであれば、あまり補足しなくてもよいです。
補足が多過ぎるとわずらわしい印象になるので、ストーリー展開に合わせて適度に入れるようにしましょう。
なお、話の切り替えを伝える手段としては、話をまとめたり、間を置く、語調を変えるなどがありますので、状況に応じて使うようにしましょう。
エンディングで聞き手に印象づける
スピーチの最後は、聞き手に対して、これまでに話してきたことをしっかり植えつけて収束させます。
同じ調子で話していて、突然話を打ち切らないようにしましょう。
重要な部分をもう一度振り返る、この話が次にどう続くか伝える、疑問が残っている点を説明する、などです。
ただし、最後になって新しいことを持ち出してしまうと、話が拡散してまとまらなくなり、せっかく伝えた話の印象が薄くなってしまうので、気をつけましょう。
スピーチの終わり方に気をつける
クロージングにおいて、そろそろスピーチを終えるということが、聞き手にも伝わるようにします。
さらに、クロージングでは語調も少し変えるようにします。
一般的には、スピードやトーンを落とすようにして物静かに語りかけるようにします。
持ち時間が決められているときは、時間配分に注意してください。
時間が足りなくなって慌てて話し終えたり、時間を持て余してしまうと、最後に悪い印象を残すことになりますので、気をつけましょう。
パブリックスピーキングにおける言葉の選び方

話をするときは、使う言葉を慎重に選ぶ必要があります。
聞き手に正確に伝わることはもちろん、どのような印象を与えるか、飽きられることはないか、メインメッセージはきちんと受け止めてもらえるか、十分に検討しましょう。
よいメッセージを選んでストーリーを練り上げても、言葉選びを誤ると聞き手には伝わりません。
耳で聞いて分かりやすいこと、リズムよく、飽きずに聞けること、伝えたいメッセージが、細かいニュアンスも含めて、きちんと伝わることなどを考えて、言葉を選びましょう。
テーマや聴衆、話す状況などに合わせることも大切で、敬語をどの程度使うか、聞き手との距離感をどのくらいにするか、など事前に次のような方針を決めておくようにしましょう。
言葉の選択基準
スピーチで使う言葉の第一条件としては、聞き手に伝わりやすい言葉を選択することです。
そのためには、専門用語や外来語、はやり言葉などは避けて、一般的でわかりやすいな言葉を選びましょう。
聞き手に合わせることが大切で、例えば、専門家を相手にスピーチする場合であれば、難しい専門用語などを使っても問題ありません。
また、聞き手に聞き間違えさせないように、同じ音や似た音で違う意味のある言葉は言い換えるようにします。
不特定多数を対象にしたスピーチで、聴衆のタイプが把握できない場合には、レベルを低めに設定します。
スピーチで使う文章は短くする
一般的に、短い文章は聞きやすく誤解も少ないので、できるだけシンプルで、短いセンテンスを心がけましょう。
ただし、リズムも大切で、ぶつ切りではなく文章をうまくつなぐことです。
短い文章は分かりやすいですが、単調になったり、稚拙に聞こえる可能性があります。
言葉を選び聞きやすい文章にすること、そして話し方を工夫することが大切です。
長い文章になる場合は聞きやすくするために工夫する
長い文章を使う場合は、次のような工夫をしましょう。
長い文章での注意点
- シンプルで分かりやすい構成にする
- 接続詞を正しく上手に使う
- 最後に否定しない
- うまく間を置いて聞き手の理解をサポートする
同じ言葉はあまり繰り返して使わない
同じことを伝えるのでも、色々な言葉で言い換えた方が、表現が豊かになり、スピーチが単調になるのを防げます。
一般的には、同じ言葉を何度も繰り返すのは、避けましょう。
ただし、キーフレーズは例外で、一番伝えたいメインメッセージは、簡潔な一文で表し、スピーチの中で何度も訴えることで、聞き手に印象づけることができます。
キーフレーズでは、力を込めて重要なメッセージであることが伝わるように話すようにしましょう。
言葉の反復については、「え~」などの言葉を挟んだり、形容詞のバリエーションや何にでも最上級を使うことは避けるようにしましょう。
表現を工夫して聞き手を惹きつける
スピーチにおいて、対比させる言い方はリズムもよくて、意味も伝わりやすいものです。
また、聞き手に語りかけて問いかける口調も、聞き手を引き込む力がありますので、活用しましょう。
これに対して、「これ」「あれ」などの指示代名詞は、何を指すのか分かりにくいケースもあります。
注意しながら限定して使うようにしましょう。
何かに例えて話したり、言葉を重ねること、反語を使うようにすることも、聞き手に伝わりやすい効果の高い表現となります。
メインメッセージは端的にわかりやすく表現する
最も伝えたいメインメッセージは、短い文章で表すようにします。
そして、スピーチの中でも強調しながら、何回か繰り返して使うようにしましょう。
繰り返すときには、他の言葉で言い換えないように、キーフレーズは常に同じ表現を使うことが大切です。
そして、反復する際にはタイミングと言い方を慎重に選ぶようにしましょう。
ただ回数だけ増やすのではなく、ストーリーの重要な部分に盛り込むと効果的です。
スピーチの文章はリズムが大切
スピーチの文章は、リズムよく、分かりやすさ、覚えやすさを考慮することが大切です。
あまり長くすると、聞き手の記憶に残らなくなってしまうので注意が必要です。
原稿を書く場合には、実際に声に出して読むことで語感を確かめてください。
状況に合わせて最適な話し方を工夫する

話し方は、話す内容と併せて重要です。
気をつけるポイントとしては、声の調子や声の高さ、スピードやボリュームになります。
これらを上手く選び、場合によっては変化させながら、しっかりと言葉を聞き手に伝えてください。
最終的には、内容やスピーチを行う場、聞き手、そして自分自身に合わせて、決めるものです。
どのように伝えれば、心に残るスピーチになるか、よく考えて工夫しましょう。
これを何度も重ねるうちに、自分のスタイルが見つかるはずです。
聞き手と信頼関係を築く
スピーチは、思いや提案を伝えるものとはいえ、話し方が一方通行ではいけません。
一方的に話してしまうと、他人事として聞き流されたり、押し付けがましい印象を与えてしまい、飽きられてしまいます。
人間は信頼と好意を持った相手の話であれば、真剣に聞いてくれます。
聞き手とはこのような人間関係を築くことが大切で、問いかけながら語りかけることが大切です。
アイコンタクトで好印象を与える
聞き手に語りかけ、良い関係を作り上げるためには、アイコンタクトしましょう。
まんべんなく、全員に目を合わせながら話すように心がけてください。
人数が多い場合は、いくつかにグルーピングしたうえで、ひとつひとつ順番に目線を当てるようにするといいです。
対象のグループの真ん中あたりにいる人を目安に視線を当てれば、その付近の人はコンタクトがあったと感じます。
逆に、アイコンタクトがないと、自信がなかったり、熱意が欠けていたり、独りよがりであると思われてしまう可能性があります。
スピーチをする際、内容によって変えた方が良いもの
一本調子のスピーチは、聞き手を退屈させ、メッセージも伝わりません。
話の流れに合わせて、話すスピードや声の高さ、口調などを色々に変化させてみましょう。
ただし、声のボリュームは小さすぎても大きすぎても聞きづらいので、音量はあまり変えないようにしましょう。
話すスピードやトーンは、効果を考えたうえで意図的に変えることが大切です。
緊張していたり、時間が足りなくなりそうであったり、聴衆が飽きてきた、というときは早口になりやすいので気をつけましょう。
マイクの使い方にも注意する
マイクを手で持つ場合には、マイクの位置にも注意しましょう。
一定の音量で話していても、手を不用意に動かすと、ボリュームが上下して聞きにくくなります。
スライドを使うスピーチでは画面の文章は読まない
スライドを上手く取り入れると、伝える力が高まりますが、使い方を誤ると逆効果です。
特に画面に文章を出して読み上げる、少し短く言い換えるようなスピーチは、よろしくありません。
スピーチは、自分の言葉で、聞き手に直接語りかけることが大切です。
あくまでもスピーチの主役は話であって、スライド画面ではありませんので、不要であればスライド画面は表示しなくても問題ありません。
スライドの効果的な使い方
スピーチで使うスライドは、次のような使い方をすると効果的です。
スライドの効果的な使い方
- 写真や図を見せて視覚的にイメージを明確にする
- キーワードを表示させて強い印象に残す
- グラフ表示することで数値を効果的に見せる
- フローや概念図で説明を補助する
スピーチで訴えたい部分はスピードを遅くしたり間をおく
強調したいところは、間を置いて、静かに、力強く語りかけるようにしましょう。
話し方で強調する工夫としては、次のようなことがあります。
話し方の工夫するポイント
- 強調したい言葉を繰り返す
- 話し始める前に少し間を置く
- 力強い口調で話す
- 話すスピードを落とす
力説したい部分では、つい声を張り上げたくなりますが、大声を出すと、聞き手は逆に引いてしまいますので逆効果です。
伝える内容にもよりますが、聞き手の心情に訴えるような場合には、声のボリュームを落とした方が聞き手に注意させる効果があります。
ジェスチャーを使うことでスピーチの表現力を上げる

話し方は、声だけで決まるわけではなく、表情や手の動き、体全体の動きなども、大きく影響を与えます。
スピーチは、言葉だけで伝えるものではありません。
聴衆の前に出たら、立つ位置や姿勢、体の向き、顔の表情や、手の動きなど、全てに気を配るようにしましょう。
そして、伝えたい内容に合わせ、最も効果的なジェスチャーを使っていきたいですね。
スピーチでの立ち位置
スピーチの基本は、聞き手から一番見えやすい場所を選び、聞き手の方をきちんと向いて語りかけることです。
スライドなどを使う場合は、照明や邪魔にならないことなどを考慮したうえで位置を決めてください。
一般的に、スピーカーは棒立ちではなく、ある程度移動する方がよいとされていますので、基本位置を拠点に動くようにしましょう。
会場によっては、卓上にマイクが置かれているなど、動くことができないこともありますが、直立不動にならないように、できる範囲で動きをつける方がよいです。
立ち方などの姿勢も大切
基本的な立ち方としては、背筋を伸ばして体の力を抜き、自然な姿勢で立つようにしましょう。
長時間にわたるスピーチでは、疲れないことも大切なポイントです。
椅子がある場合には、立ったり座ったりして調整しながら、最後まで良いコンディションで話せるように工夫しましょう。
スピーチでは基本位置から縦横どちらにも動くようにする
棒立ちのスピーチはよくないのですが、意味なく動き回り過ぎてもいけません。
意味をよく考え、縦の動きや横の動きを上手く取り入れながら、メッセージを表現しましょう。
動くこと自体に意味があり、実際にはさほど大きく移動する必要はありません。
照明や音響、聞き手からの見え方など、全て考慮した上で、動く範囲を決めましょう。
動きをつけると効果的なケース
スピーチの中で動きをつけると効果的なケースを次に挙げます。
動きが効果的な場面
- 語りかけるときは、聞き手に向かって一歩近づく
- 動いていても重要な部分では立ち止まる
- ものごとの経過を話すときには、横に移動することで時間の経過を表す
- 登場人物が2人としたときは、そのやりとりを向きを変えながら話す
- 対立する考えについて、位置を変えて表す
スピーチ中は適度に手を動かすことで表現力が出せる
スピーチの中で手の動きを使うことで、幅広い表現力が出せます。
手の動きを上手に使うことができれば、より強く想いを伝えられますが、間違った使い方をすると悪い印象を与えてしまいます。
基本は、自然に両脇に垂らした姿勢です。
前や後ろで腕を組んだり、ポケットに手を入れたりしてはいけません。
相手に対して、威圧的、閉鎖的、傲慢といった印象を与えてしまいます。
スピーチの内容について意味を考えながら、大げさにならないように、胴体位置で適度に動かすようにしましょう。
大げさに動かすと、わざとらしいとか真面目ではないという印象を与える可能性があります。
話の内容とは無関係に、手や指をせわしなく動かしてしまうと、落ち着かない印象になり、自信を感じさせなくなりますので注意しましょう。
マイクは片手で持つのが基本
マイクを手で持つ場合には、片手で近すぎず遠すぎない位置に持つのが基本です。
例えば、大声で表現したいときには、ボリュームを上げたうえでマイクを遠ざけるようにします。
無意識に動かすと、音量が一定しませんので、むやみに動かさないようにしてください。
また、頻繁に持ち替えると、落ち着きのない印象を与えてしまいますので注意しましょう。
マイクスタンドがセットされていても、場合によっては、外して手で持った方が、動きを出しやすく、表現力が豊かになるので工夫しましょう。
マイクの位置は音量との兼ね合いで工夫する
マイクの基本的な持ち方は次のとおりです。
基本的なマイクの持ち方
- 片手で持つ
- マイクの中央を軽く握る
- マイクヘッドに触れないようにする
- マイク本体を立てて持つ
- 口から10~20cmくらいの位置
意味のある動きをすることで強調できる
例えば、言葉で「広い」と言うだけでなく、腕を広げて見せると、意味がより強く伝わります。
また、急に動きを止めるのも、言葉を浸透させたり、緊張感を与えたりする効果があります。
相手を指差すような失礼に当たる動きや、品位のないしぐさなど、相手を不快にしないように気をつけましょう。
ジェスチャーは、国や地域による習慣の違いもありますし、聞き手との距離によって適切な動きが違ってくるので注意しましょう。
おわりに
ビジネス現場では人前で話をする機会が多くあります。
人に何かを伝えるということは簡単なことではありません。
聞き手に対して、言いたいことを理解させて心に残すためには、伝えたい内容をしっかり考え、言葉を厳選した上で、持てる全てのツールを活用することが重要となります。
今回紹介した内容を参考に、自分なりのパブリックスピーキングを確立し、聞き手を動かすスピーチができるようにしましょう。
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